東京高等裁判所 昭和56年(行コ)64号・昭56年(行コ)65号 判決
主文
本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実<省略>
理由
一藤沢市が本件市民センターを建築するにあたり、同建築場所の一部が同市において昭和四八年一二月二五日付で指定した第一種住居専用地域に該るため被控訴人に対し、建築基準法四八条一項但書、別表第二(い)の九、建築基準法施行令一三〇条の四に基き建築許可申請をしたところ、被控訴人が昭和五一年一一月九日本件許可処分をしたこと、その後本件市民センターが建築完成したことは全当事者間に争いがない。
二控訴人らの本訴は、特定行政庁である被控訴人が、公益上やむを得ないと認めてなした建築基準法四八条一項の許可処分の取消を求めるものであるが、右の許可処分があつても直ちに許可に該る建築物の建築がなされるわけではなく、これが建築のためには更に同法六条による確認が必要であり、しかも右許可の要件と確認の要件とは異るものであることを考えると、右許可処分があつた段階で直ちに訴訟を以てその是非を争わせることが相当であるかどうか疑問があるうえに、右許可処分が直ちに右建築物の周辺隣地居住者の権利ないし利益に影響を及ぼすかどうかについても問題がないわけではない。すなわち、本件許可の処分性或いはいわゆる争の成熟性については、なお検討の余地があるものというべきである。
しかし、右の許可処分は、建築基準法四八条九項及び一〇項から明らかなように、具体的な計画についてなされるものであるから、建築される建築物の規模・態様やそれが周辺隣地に及ぼす影響の範囲・程度等は、すでにこの段階において相当の蓋然性を以て予測され得るものと認められるから、右許可に該る建築物の建築によつて、日照・騒音・採光・通風・衛生・防災等生活環境に影響を蒙ることとなる周辺隣地居住者は、前記確認をまたないで、確認があつた場合と同様に右許可処分の取消を求めることができるものと解しても必しも不当ではないというべきである。
三そこで、控訴人らが本件許可処分の取消を求めるにつき法律上の利益を有するかどうか、すなわち原告適格を有するかどうかについて検討する。
<中略>
控訴人らが本件許可処分の取消を求めるには、控訴人らにおいて、本件市民センターの建築により日照・騒音その他生活環境上の被害を蒙る虞れがあることが必要であるところ、右に認定判断した事実関係からすると、控訴人重田勉及び同松田商会については、現に右の被害を蒙り、或はこれを蒙る虞れがあるものとは到底認めることができず、他にこれに反する主張・立証はない。つぎに、控訴人松田栄夫については、右の事実関係によると、日照に関して被害を受ける虞れが全くないものとは言えないが、同控訴人方の現実の日照の状況が右認定のとおりであることを考えると、これを以て直ちに本件許可処分の取消を求める利益を肯認するに足る生活環境上の被害ということは困難であり、他にこれを左右すべき特段の主張・立証はない。なお、右に認定判断したところによれば、そのほかに同控訴人が被害を蒙る虞れがあるものとは認められない。従つて、控訴人らはいずれも本件許可処分の取消を求める利益ないし原告適格を有しないものというべきである。
四なお、本件市民センターの建築が完成したことは、前一のとおり当事者間に争いがない。
ところで、建築確認にかかる建築物の建築が完成したときには、当該確認処分の取消を求める訴の利益は失われるものと解するのが相当である。すなわち、建築基準法六条及び七条に定めるところからすると、建築確認は、工事着手前において建築計画が建築関係法令に適合するものであることを公権的に判断する行為であり、これにより申請にかかる建築物について建築をなし得る効果を伴うものと解される。従つて、判決により建築確認処分が取消されると、当該建築物について建築工事をなし得るという確認の効果が排除され、工事をすることができなくなるから、工事の施行を停止させることによつて回復すべき法律上の利益を有する者は、確認の取消を求める訴を提起することができるものであるが、右建築物の建築が完成したときは、もはや停止すべき建築工事が完了しているのであるから、右述の訴の利益は消滅するというべきである(従つて、建築完了後においては、建築基準法九条一項の是正措置命令をまつか、損害賠償を求めるほか救済の途がないことになるが、右両者はいずれも建築確認処分の取消を前提とするものではない。)。
建築確認について右のように解すべきである以上、本件許可のようにそれに先立つてなされた建築基準法四八条の許可(いわゆる例外許可)処分の取消を求める訴の利益は、当該許可にかかる建築物の建築完成により失われるものと解するのが相当である。
してみると、仮りに控訴人らにおいて本件建築許可処分の取消を求める訴の利益ないし原告適格を有していたものとしても、本件市民センターの建築完成により、控訴人らはこれを失つたものというほかない。<以下、省略>
(川上泉 小川昭二郎 橘勝治)